ZenkenのChatGPT Enterprise全社員導入までの道のり

Zenken株式会社は2024年11月、ChatGPT Enterpriseを国内で初めて全社員導入しました。

ここまでの道のりを当事者である私岡田がお伝えしていきます。

全体的なタイムライン

2023年3月 GPT-4登場

ChatGPT Plusで利用を開始

2023年 7月 GPT-4 APIを一部数十名で社内利用
2024年1月 生成AI専任部門 AI部門始動、ChatGPT Enterpriseを150名から利用開始
2024年7月 営業職の全社員へEnterpriseアカウントを付与
2024年 11月 国内初、ChatGPT Enterprise 全社員導入へ
2025年3月 外部委託費用を約5,000万円(2024年)削減実績を公表

余談
私が交流してきた大手企業の多くはトップダウンで導入が進んでいる話をよく聞きますが、弊社はボトムアップで導入を推進してきましたので、導入部分についてはボトムアップの事例として御覧ください。

はじまりは、GPT-4の登場

私がChatGPTに触れたのは2023年に入ってからでした。当時はGPT3.5がフラッグシップモデルとして利用が可能で、今まで「AI」と言われていた常識が大きく覆されました。

ChatGPTを使い始めて1ヶ月、2ヶ月でGPT-4という驚異的な成長を遂げたモデルが発表され、即座に利用をし始めてこれを会社で使わないといけないと思ったことが始まりです。

当時、私以外にもこのGPT-4を知っている人は一人、二人のレベルで、とてもマイノリティでした。そして、ChatGPT Enterpriseも存在せず、コンシューマー向けのChatGPT Plusのみ存在している黎明期の中の黎明期。

まずは、ChatGPT Plusを社内で使わせてもらうための稟議含めた承認からこの歴史がスタートしたのです。

ChatGPT Plusの利用を私をきっかけに、最大で10人程まで増やすことができました。そうこうしている中で、2023年夏ごろにGPT-4APIの提供がスタートし、ウェイトリストへ登録を行い当時所属していた部署全員(約20名強)で利用を開始しました。

そうこうしている中で、大きなニュースが入ってきます。それがChatGPT Enterpriseプランのリリースです。

当時はOpenAI JAPANも無く、全てが英語のみの状況でしたがChatGPTを使って問い合わせをすぐに送りました。しかし、1ヶ月、2ヶ月待っても連絡が無く、半ば諦めていました。

この状況で、マイクロソフトがMicrosoft 365 Copilotを一般提供する話も入ってきており、ChatGPTが連絡来ないならMicrosoftにするか?という議論も行われ始めている中で、追い打ちを掛けるようにChatGPT Plusの新規受付停止のニュースも入ってくる事態が発生。更に、OpenAI CEOの解任のニュースも。

生成AIを導入するぞという熱が熱々の中で、OpenAI本当に大丈夫か?と一時不安になるが、私はそこを信じ続けChatGPTを使うべきだと推し続けました。

右往左往している中で、遅れること3ヶ月、ChatGPT Enterpriseの案内がOpenAIから来たことによって、前述した新規受付がまたいつ起きるかわからないことから、このチャンスを逃すまいと導入の話が一気に前に進みます。

生成AI導入の前例も事例も社内外に全く無い状態で、1000万円単位の設備投資をするには経営者にとっても簡単な事ではありません。ただ入れてくださいでは決裁を得られる訳ではない、コストメリットをどのように出すか考えなければならない事が多くありました。

ChatGPT Enterpriseを導入する大義名分は何とするか?

生産性がどれほど向上するかもわからない、ただお金だけ出ていく可能性もある。こういった不安がありました。

そこで、目を付けたのは「外部委託費の削減」でした。弊社は、コンテンツマーケティングを主力事業としており、不足リソース分は外部委託に頼っています。

外部に委託しているコンテンツ制作をChatGPTを使って社内回帰を実現させることで、最低でも導入費用を相殺出来る見通しが立ちました。(社内事情の詳細は割愛しますが、関係各所への説明、協力、コミットメントに至るまでかなり苦労をしました)

最低でも1年で相殺が出来る見通しなので、マイナスにはならないためチャレンジさせて欲しいことを担当役員と共に繰り返し訴えかけて、導入が決定しました。

コストメリットのロジックだけでなく生成AIが絶対に必要だ、絶対にコミットメントをやり遂げるという熱量を伝え信頼を得られるかどうかも重要だと思います。

生成AI専任部門の設立

私は当時、法人向けコンテンツマーケティングサービスを新規で立ち上げ、少数精鋭ながら売上も順調で軌道に乗っている状況でした。

本件が決まった事で、私が立ち上げたサービスを部下に全て移譲し、AI専任でやらせて欲しいと本部長へ伝え、AI部門を設立し、2024年1月から正式に始動しました。

AI部門は、2名体制で始まり、現在も2名で450名を支えています。

なぜ専任?
ただでさえ前例もなく、社内の生成AIリテラシーも皆無に近い状況で「兼任」は不可能と判断したからです。現時点において、兼任でやられている推進担当者から利活用推進、定着が上手くいっているという話をほぼ聞いたことがありません。

導入が決まったらやるべきこと

ガイドラインの制定

  • ガイドラインの対象範囲(※グループ企業がある場合)
  • 利用アカウントについて
  • 著作権と知的財産権の取り扱いについて
  • コンテンツ生成における禁止事項
  • 画像生成の利用について
  • 管理体制、エスカレーションルート

少なくともこれくらいは社内の必要最低限のガイドラインとして定めておく必要があります。全社員に導入していない場合は、ChatGPT無料版の利用を許可するか否か、許可する場合のガイドラインを別途制定する必要があります。

最も重要なのは、著作権と知的財産権の取り扱いです。生成AIで生成したものに対する権利を主張するための取り扱いや、プロンプトは知財であることの理解を得るといった地道な法的理解の定着を進めていく必要があります。これには法務課の協力が不可欠です。

導入研修、継続研修計画の策定

はじめに、どのような形式で実施をするか検討しましょう。
これから導入、研修をしていく場合は規模にもよりますが「オンライン」、つまりZoom,Teams,Google Meetなどを使って実施することを推奨します。必ず研修を録画し、誰でも再視聴を可能な環境へ動画を保管しておきましょう。

最初のうちは、社内の熱を高めるためにもオンラインでリアルタイム参加による開催を行い、ある程度成熟してきたらリアルタイム参加で開催するものは「質疑応答が発生する可能性が高いもの」だけに限定をし、それ以外は動画を作成して公開する方法に切り替えると良いかもしれません。

研修開催のポイント

私の研修スタイルは、「入退室自由、ながら見OK」という参加ハードルと極端に下げたものにしています。通常、研修というと会議室に集まり、最初から最後まで参加しなければなりませんが、この形式は多くの人が「参加しない理由」になりかねないと思っています。大事なのは「参加」するというエンゲージメント率をどれだけ高められるかです。

もっと重要なポイントが、Zoomであれば「ウェビナー」、Google Meetであれば「ライブ」機能を使うことです。この機能を使うことで、参加者のカメラ映像・音声をこちらで強制的にオフにすることが出来るため、参加者は見られているという心理的ハードルが無くなり、「マイクミュートのし忘れ」による邪魔もされません。

Google Meetのライブはコメント機能が無いため、参加者の声をコメントで拾う事ができないので注意しましょう。ライブ機能でなくても、通常の会議リンクを使って「主催者」機能を有効化することで参加者の映像と音声を強制的にオフできるので、これを活用すればコメント機能を使うことが可能です。

オンライン開催する場合は、安定したネットワークも不可欠です。有線LANを使える環境であれば、有線を積極的に利用しましょう。リモートワークも増えている現代において、オンライン開催は不可欠です。

過去に行った研修テーマ

全てではないですが、一部抜粋してテーマをご紹介します。

  • ゼロから始めるChatGPT Enterprise
  • GPTsの作り方・新機能解説
  • コードで資料作成・予定登録の自動化
  • ChatGPTの新たな検索機能の解説
  • 社内問い合わせをゼロにするGPTs講座
  • ゼロプロンプトで使えるGPTsの作り方
  • ChatGPT タメになるTips紹介
  • 上司を唸らせる日報をChatGPTで書く
  • 資料の理解・文章生成(チャット、コンテンツ、メール)
  • ChatGPT×GASで日報を集約・振り返り
  • ウェビナー:商材・市場理解プロセスをGPTsで実現
  • GPTsで会議共有・議事録不要の情報共有
  • チャット・メール対応効率化GPTs、日報作成GPTs
  • NoteBookLMを使った社内問い合わせ削減
  • ChatGPTモデルごとの特徴紹介
  • o1モデルのプロンプト解説
  • Gemini × ChatGPTの使い分け
  • Gemini2.5 ProとChatGPTの比較検証
  • AIを使った情報検索(NotebookLM, Gemini, ChatGPT)
  • 事例共有(社員の登壇)
  • 4o画像生成
  • o3, o4miniの解説・アップデート
  • 画像のトンマナ揃え・画像ライブラリ機能
  • 2025年5月版 ChatGPT操作説明

これだけでもまだ一部です。AI部門として多いときは、月間10時間以上の研修を開催しており技術の進歩にあわせて陳腐化したプロンプトやワークフローを見直し、ブラッシュアップ版として開催することもしばしばあります。

ZenkenはGoogle Workspaceを全社で使っているため、Gemini・NotebookLMも利用できる環境にあるためこれらもあわせた研修を2025年から行っています。

これから生成AIを使う時に必ず理解してもらうべき内容

  • ナレッジカットオフについて
  • GPTモデルとリーズニングモデルの違い
  • プロンプトとは何か
  • 言語化の重要性
  • Zeroショット と Fewショット
  • GPTs(カスタムGPT)とプロジェクトの違い、用途

このあたりは必ず抑えておきたい内容です。よくある「生成AIとは何か」については正直必要ありません。知りたければChatGPTから教えてもらえばいい内容です。

ChatGPTを社内で定着するためのポイント

最も重要なのは「共感」を得ることです。何ができるかということに終始しがちな研修ですが、入口で大事なにはAIというものが「面白い」と「共感」してもらうことです。

興味関心をひくことで、利用者自身で色々と試したくなるように行動を喚起できるような内容から着手していきましょう。

次に大事なのは、一緒に共感をしてくれる仲間を社内で構築していくことです。ChatGPTを使った様々な検証や取り組みを行う時に、我々AI部門は2人しかおらず物理的に出来ることが限られていきます。小さなな取り組みから大きな取り組みまで、一緒に快く協力してくれる将来のAIリーダーを見つけ、巻き込んでいくことが重要です。

最後の難関はマインドセットです。AIなんてと斜に構える人が最初は一定数います。乱暴かもしれませんがこういった人たちは後回しにして「共感」してくれる人を優先して強化を行い、その人達が自分たちの部署で動いて自走できるようにしていきます。

周りがChatGPTを起点とした仕事をするようになると、斜に構えている人も自ずとついていかざるを得ません。実はこの問題は時間が解決してくれます。

変えるべきマインドセット

定着を進めていく上で今まで自分でやることが当たり前だったその常識を覆していく必要があります。

例えば

  1. 文書の全文精読 → AIによるサマリー活用
    • 長い報告書や議事録を全文読むのではなく、ChatGPTにサマリーを作らせて要点だけ確認する。
  2. ゼロから資料作成 → 叩き台生成+編集
    • 白紙から企画書を作るのではなく、ChatGPTにベース案を作らせて手直しする。
  3. FAQ・マニュアルを都度検索 → AIへの自然言語質問
    • 分厚いマニュアルを探すのではなく、カスタムGPTを作成し、ChatGPTに直接聞く。
  4. アイデア出しはブレスト → AIによるアイデア生成からスタート
    • 新商品企画やコピー案をまずChatGPTに出してもらい、そこから議論。
  5. 英語メールは自分で翻訳・作文 → AI翻訳+文案作成を任せる
    • 英語メールを自力で書くより、ChatGPTに翻訳・ネイティブチェックさせて時短。
  6. 会議議事録は手書き・手入力 → 音声データや要点をAIで自動化
    • 会議録音データを文字起こしツールを使いテキストにして、ChatGPTに要約させ、議事録を自動生成。
  7. プログラムやコードは自力で調べて書く → AIにコード例・解説を出してもらう
    • ググってコピペより、ChatGPTに「こんな処理をしたい」と伝えてコードを得る。
  8. アンケート結果や大量データは自分で分析 → AIで自動サマリー&グラフ化
    • 集計データを渡して「ポイントだけまとめて」と依頼。
  9. メールや文章の校正・レビューは自力 → AIによる校正・リライトを活用
    • ChatGPTに「丁寧語にして」「もう少し簡単に書き直して」と頼む。
  10. 業務の段取りやTODO管理は手帳・Excel → AIに最適なフロー・TODOリストを作らせる
    • やりたいことやゴールを伝えて、ChatGPTにスケジュールや優先順位を作成してもらう。

最初に陥りやすいのは、「自分でやって困ったらChatGPTに助けてもらう」という使い方です。これは大きな間違いです。

大事なのは、全てのワークフローをChatGPT起点にすること。最大で8割程のワークをChatGPTで短時間で処理が可能です。断片的にChatGPTを使うのではなく、最初にChatGPTで処理できるものは全て処理をしてしまい、最後に自分の手で修正・追加を加えるという自分で仕上げをする時間を創出し、これまで以上に仕事の品質を向上させることが最適解の1つだと考えています。

ワークフローの改善は現場に任せずマネージャー・係長以上が必ず加わること

事業及び業務に対する解像度が最も高いのは、マネージャー以上です。現場に丸投げしていてワークフローのAI最適化が上手く進んだ例を見たことがありません。

マネージャー以上が現場にやるべきことは、仕組み化をして現場におろす事です。ワークフローの構築はそう簡単ではありません、中長期に考えステークホルダーとの関わりなど広範囲に目を配って構築してく必要があります。ここを軽視してしまうと、いつまでも自分の部署は生産性が上がらないという負のスパイラルに陥ることになります。

現場任せにすると「意思決定」がなかなか進まず、ひとまず牛歩になります。更に、実行よりも検討の割合が9割を占めることも多く、PoCが全く進まず定例会議として30分集まっては何も決まらず、ただ話をしただけで終わってしまいます。

一番問題なのは、組織の責任者がAI最適化を指揮統括をしっかりとせず、AI最適化の属人化が始まること。組織でワークフローを見直すことに乗り出さないと、個々人で「いかに効率よく進めるか」という分断が自然と発生し、AIを使うのが上手な人はどんどん効率化され、その方法もブラックボックスとなり、組織全体の生産性向上には全く繋がりません。

全員で取り組むぞという号令をかけることが責任者が重要な役割であり、最も生成AIを理解しておかなければなりません。

社内への通達をどのように行ったか

全社員を招待したAI部門からの連絡チャットルームを作成し、一方的に情報を送っています。時々その中でアンケートを取ったり事例の共有をもらったりコミュニケーションを時々取ることもあります。

重要なのは「途切れさせない」ということです。1週間に1回しか情報発信が行われていないような場所には何の意味もありません。どんな些細なことであれ、社内で一部の方にとって有益だろうというものなど何から何まで情報を提供しています。

ほぼAI専用の社内版Xのような運用を行っています。

これを行うことで、毎回チャットにリアクション(絵文字)を残してくれる方の傾向も掴めたりするため、積極的に情報を取りに来てくれている方を掘り出して、積極的に巻き込むことに繋げていきます。

ここで大事なのが、発信側のメンタルです。最初はリアクションがとても薄いものですが、ChatGPTの理解が醸成されていくとリアクションは徐々に増えていきます。そのステージに上り詰めるまではリアクションが無くても折れずに情報を提供していくことを継続します。

また、提供する情報も専門的すぎると誰も興味を持たないので、身近に感じるライトな情報を優先的に選別して提供し、実際にその情報をもとに自ら試したり検証したりした上でその結果をあわせて提供していくと、より信頼も担保されていきます。

専任でやる限り、提供する全ての情報に信頼性、権威性を得ることが成功への道のりとなります。

まとめ

私は2023年のGPT-4登場をきっかけに、社内でのChatGPT活用を本格的に推進してきました。当時は社内でも「AIなんて使えるのか?」という空気が大半で、手探りの連続。まずは自分自身でChatGPT Plusを導入し、その価値を体感した上で、少しずつ周囲に利用を広げていきました。最初は本当に数人のマイノリティからのスタート。しかし、生成AIの進化スピードや実務効果を目の当たりにし、「これは絶対に全社で活用すべきだ」と強い確信を持つようになりました。

導入を進める中で一番苦労したのは、「なぜ今AIなのか」「なぜこの投資が必要なのか」という大義名分作りです。特に経営層を説得するためには、情熱だけでなく、具体的なコストメリット、すなわち外部委託費削減のシナリオを何度も練り直し、関係部署と粘り強く交渉を重ねました。その結果、導入初年度で5,000万円の外注費削減を実現できたことは、大きな達成であり大きな実績です。

ZenkenはAI部門を立ち上げ、2名体制で450名をサポート。ガイドラインの策定、著作権・知財対応、そして何より“使い方を理解し楽しんでもらうための仕掛け”を重視してきました。研修も一方通行の押し付けではなく、気軽に参加できる雰囲気作り、そして「ながら見OK」「入退室自由」という柔軟な運営にこだわりました。自分の経験上、「AIは面白い」「試してみたい」と思ってもらえることが定着の第一歩だと考えています。

マインドセット改革も強く意識しています。これまで自分で調べ、書き、読んでいた“常識”を変え、AIで8割を自動化→最後の仕上げだけ人が担う流れを全社に広げることに集中してきました。また、現場任せで終わらせず、必ずマネジメント層を巻き込んでワークフローを標準化し、個人のブラックボックス化を防ぐよう心掛けています。

最後に、社内チャットでの情報発信は「途切れさせない」「ライトな話題も大事」「反応が薄くてもやり続ける」を徹底。社内Xのような雰囲気で、共感と行動の連鎖を生み出すことができました。今振り返れば、前例なき挑戦の連続でしたが、「AIで社内を変える」という熱量と、周囲の仲間を巻き込む力が一番の原動力だったと感じます。これからも、さらに一歩先のAI活用にチャレンジし続けていきます。